Endhits Studio の中村フミトです。
かなり久しぶりの投稿ですが、今日はスタジオのモニター環境についてのお話です。
先日、Endhits Studio はコントロールルームの天井・壁・床の改装と電源周りの大がかりな改修を行いました。
その結果、かねてから悩んでいたブーミーな低域や、サウンドがいまいち前に出てこないといった問題点を劇的に改善することができました。
この改善によりEndhits Studio は「まぁまぁ良いスタジオ」から脱皮して、スタジオ設立当初から目指していた「ローコストながら世界に通用するサウンドが得られる場所にする」という目標にまた一歩近づくことができたと思っています。
これまでEndhits Studio のモニターについてご意見を頂いたすべてのクライアント様、また、モニターについてお叱りをいただきながらもスタジオのご利用を継続してくださったアーティスト、ディレクター、プロデューサー、エンジニアの皆様には、いくら感謝してもしきれません。
本当にありがとうございます!
そして、これからもよろしくお願い申し上げますm(_ _)m
Endhits Studio スタッフ一同
~ 以下、駄文・長文、お時間やご興味がある方はお読みください~
◇ スタジオにとっての『モニター』とは
Endhits Studioがオープンしたのは2017年5月、オープンから1年と少し経ちますが、その間に常に私を悩ませていた問題がありました。
それがコントロールルームのアコースティック(響き)でした。
コントロールルームのモニタースピーカーから出てくるサウンドは、スタジオにとって最も重要な要素のひとつだと言えます。
いくら良い機材やスピーカーが揃っていても部屋の鳴り(ルームアコースティック)がNGであれば宝の持ち腐れです。
いま現在どういうサウンドが出ているかを正確にモニターできなければ、クライアントもエンジニアも良いか悪いか判断できずに作業が進まないからです。
ルームチューニングついて調べたことがある方ならご存じだと思いますが、一般家屋のように天井と床、または向かい合う壁同士が平行になっている部屋では、その平行面を音が反射することにより”定在波”と呼ばれる周期的な振動が発生して、スタジオ作業には好ましくない音場を作り出します。
この定在波を抑えるためには、スタジオを広くして反射の影響を少なくするか、天井と床、または壁同士をなるべく平行にしないようにすることがセオリーなのですが、残念ながらEndhits Studioの設計はそのようにはなっていませんでした。
一般的にレコーディング作業に最適な音響特性を得るには、実際の作業スペースよりはるかに大きな空間が必要になりますが、Endhits Studioは決して広いスタジオではないので、必然的に壁や天井の反射の影響が大きく、また天井と床と壁同士が平行になっているため、”定在波”の影響が支配的な状態になっていました。
いま思うと、スタジオ設計を担当していただいた会社の社長さんや担当さんにスタジオの音響についてもっと入念に確認しておけば良かった、と後悔しています。
その設計会社さんのことを書くのがこのブログの趣旨ではありませんが、前述した通りのルームアコースティックの基本となる設計がなされていない点や、その後の調整依頼に対してもこれといった改善案を提案していただけなかったことを考えると、残念ながら同社の設計理念や顧客に対する姿勢に疑問を持たざるをえません。
まぁ、この辺りことについて書き出すと、永遠にボヤキ続けることになってしまうのでこの辺にしておきましょう。
◇ 満足できないモニター環境に悩む日々、そしてサウンドデザイナー秋野氏との出会い
Endhits Studio が完成した当時、最初にモニターのサウンドをチェックしたとき、「あ、やはりこうなるのか」というのが私の正直な感想でした。
低音が膨らみ高域は十分伸びていない、私がもっとも恐れていた典型的な”マンションスタジオ”のサウンドになっていたのです。
当然、最初はスタジオを設計していただいた会社の担当さんに相談しましたが、音響測定はして下さるものの、これといった改善案は見つかりませんでした。
(その担当さんは一生懸命お付き合くださったことを誤解の無いように書いておきます)
それからというもの、ルームアコースティックやモニターに関する書籍を読み漁り、人づてにアドバイスをいただける人に会いに行ったりと、この部屋の音を何とかできないものかと調べる日々が始まりました。
しかし、色々調べてはみたものの、これまであらかじめモニター環境が整ったスタジオで作業させていただいていた私にはモニター調整に関する経験が決定的に不足していることを思い知りました。
音響チューニングは知識や理屈だけでは到底太刀打ちできない、経験がものをいう世界だったのです。
そんな思い悩むある日、私が最もお気に入りのモニター環境を備えるスタジオ「Studio Greenbird」さんに相談したところ、サウンドデザイナーの秋野賢市さんをご紹介いただいたのです。
秋野さんはご自身も第一線で活躍されていたエンジニアで、現在はStudio Greenbird をはじめ、多くのスタジオの音響を見てらっしゃるスタジオ設計と音響チューニングのスペシャリストです。
我々は秋野さんのご指導のもと、主に以下の三点の施策を行いました。
① コントロールルームの音響調整・・・壁、天井、床、すべての面の吸音と反射を再調整
⇓仮組みしたチューニング素材の様子・・・壁に貼られたグラスウールや毛布、天井に吊るされたベニアによって吸音と反射を変えながら試聴を繰り返した
秋野さんは初めてEndhits Studio に足を踏み入れた際に、「こんにちわ」と挨拶する私の声を聴いただけで即座に「部屋が吸音され過ぎている」と問題点を指摘されました。
このあたりの勘所は秋野さんの経験の成せる業であると感服しました。
それから秋野さんの指導のもと、仮組みのチューニングを行い、結果を試聴することを繰り返し部屋に適したチューニング方法を絞り込んでいきました。
その結果、元々は厚みのあるグラスウールが壁一面に詰められていたのものを、より薄いものに変更して、実際の音を聴きながら吸音する量を微調整しやすいように変更しました。
また、今まではほぼ吸音しかされていなかったものを、反射と吸音を組み合わせたものに変更しました。
そして、天井には秋野さんが考案された反射層と吸音層の組み合わせを自由に入れ替えられるパネルシステムを導入しました。
⇓秋野氏が考案した天井の音響パネル・・・写真では見えないがパネルを入れ替えることで反射面と吸音面をフレキシブルに入れ替えられるようになっている
さらに、元々の床は無垢の板張りだったのですが、カーペット敷きに変更しています。
これらの変更は文字にすると簡単に思えるかも知れませんが、秋野さんの豊富な経験によるご指導が無ければ到底たどり着けなかったと思っています。
この作業で劇的に部屋の鳴りが改善されました。
私もスタジオスタッフも秋野さんも皆グラスウールまみれになりながらの作業でしたが、十分に価値のある作業でした。
② 電源環境の見直し・・・電源アイソレーショントランスを撤去(!)、全機材の電源極性の再確認
元々Endhits Studioの電源には100V、117Vともにアイソレーション用のトランスを設置していました。
秋野さんは「この電源トランス、取り外してみませんか?」と私に提案しました。
その提案に驚いている私に秋野さんは「電源のアイソレーショントランスは必ずしもあった方が良いとは限りません。無いほうがサウンドが良くなることもあります」と教えてくれました。
実際にトランスを取り外した電源とサウンドを聴き比べたところ、トランス無しの方が明らかにフォーカスが合ったサウンドが得られることが分かりました。
秋野さんは「(トランスのグレードにもよるけれど)電源のアイソレーショントランスは周囲から入ってくるノイズを遮断する効果がある反面、サウンドに味付けをしてしまうこともあります。住宅街のような電源ノイズの少ない環境では、トランスは無いほうが良いこともあるんです」とも教えてくれました。
こうしてEndhits Studio の100V電源はコントロールルーム側はすべてトランス無しになりました。(117Vは引き続きトランス有り)
そして、あらためてすべての機器の電源極性を調べて極性を合わせることで、よりリアルなサウンドが得られるようになりました。
最近の機材は電源極性の影響を受けにくくなっているものも多いとはいえ、Endhits Studioにはビンテージギアに倣った回路をもつ製品が多いため、やはりこれは重要な作業です。
⇓トランスの撤去作業の様子
③ スピーカーの設置方法を再検討
ここまで来ると部屋の音はかなり改善され、完全に満足とは行かないものの、最初とは比べ物にならないほど端正なモニターサウンドに変化していました。
ここからは微調整です。
まだ少し低域が残るところがあったので、スピーカーの設置場所(壁からの距離)を変え、低域を引き締める効果の高いインシュレーター「DMSD 60PRO」を追加することで対策しました。
こうした仕上げの微調整により、Endhits Studioのモニター環境は今までスタジオをご利用いただいていたお客様にも「見違えるように良くなった、まったく問題ないレベル」と褒めていただけるレベルになりました。
◇ モニター調整を終えて学べたこと
今回、コントロールルームの音に対して色々な方からご意見をいただいたり、前述したスタジオ設計会社との煮え切らないやり取りの中では悔しい思いをすることも沢山ありました。
現場で毎日お客様のお声を頂戴してきたハウスエンジニアやスタジオマネージャーも、お客様のお声に応えられずにやり切れない気持ちだったと思います。
しかし、この問題にぶつかることで結果的に秋野さんという素晴らしいサウンドデザイナーに出会えたこと、音響の仕組みやルームチューニングのノウハウを深く学ぶことができたことを考えると、塞翁が馬ではありませんが返って良かったのかなと思っています。
最後に、今回身を持って学んだことを書いておきたいと思います。
・(分かっていた事ですがあらためて)モニター環境はスタジオにおける要であり、いくら良い機材を揃えても部屋の音が良くなければ意味をなさない。
・スタジオの設計は多少高くても、豊富な経験と高度な専門知識を持ち、最後までケアしてくれる真摯な姿勢を持った業者さんに依頼するべし。安かろう悪かろうは結局あとで高くつく。
・ルームチューニングは理屈だけ勉強しても成功しない。トライ&エラーを繰り返した経験がものを言う。
・決して広くはない空間であっても、創意工夫と入念な試聴を繰り返すことで部屋の音は改善できる。(部屋の音を変えるにはモードを変えるしかない、モードが決まっているから対策できない、というのは間違っている)
・(秋野さんもおっしゃっていましたが)部屋の音は生き物であり、ちょっとした条件の変化でサウンドは変化する。スタジオを使用する人間が学びながら継続的にチューニングに気を使うことで、より良い状態が保たれる。
以上、僭越ですが、これからスタジオを作ろうと思っている方のご参考になれば幸いです。
これからもEndhits Studio はルームチューニングを継続していきます。
これまでスタジオをご利用いただいたクライアント様も、まだご利用いただいたことがない方も、ぜひ一度Endhits Studioのモニターをチェックしにお越しください。
今後もお客様のお声に精一杯お応えしていきたいと思っておりますので、忌憚のないご意見をお聞かせいただけたら幸いです。
私が思い描く『エクセレントな小規模スタジオ』としてやっとスタート地点に立つことができたEndhits Studioは、これからも素晴らしい作品が生み出される場所になることを確信しています。
また長文になってしまいました(汗)
最後までお読みいただきありがとうございます。
それではこの辺で、、、 Have a nice sound ( ̄0 ̄)b♪